衆議院 調査局 国土交通調査室長 國廣 勇人
政府は、令和7年6月6日(金)に防災立国推進閣僚会議を開催し、防災庁設置の基本的な方向性を示した。
同会議では、世界有数の災害大国である我が国において、南海トラフ地震や首都直下地震、日本海溝周辺海溝型地震、富士山噴火など国難級の災害の発生が切迫する中、人命・人権最優先「防災立国」の実現が急務であり、こうした国難級の災害に対しても死傷者や避難者を大幅に低減させ、必要な国家・社会機能を維持するため、平時からの事前防災の徹底が必要であるとした。
そして、わが国の防災全体を俯瞰的に捉え、産官学民のあらゆる力を結集し、中長期的な視点から我が国の防災の在り方を構想するとともに、徹底した事前防災、発災時から復旧・復興までの一貫した災害対応の司令塔となる組織として「防災庁」を設置するとした。
防災庁は、内閣直下に設置し、平時からの政府全体の防災施策の実施をリードし加速するための勧告権を有する専任の大臣の下、十分なエキスパート人材と予算を有する組織とするとした。
その上で、防災庁が担うべき司令塔機能として以下の3点を示した。
1 防災に関する基本的政策・国家戦略の立案
多様な経験と高度な知見を基に、あらゆる事態を想定し、起こり得る被害を先読みした防災の基本政策・国家戦略の企画立案
2 徹底的な「事前防災」の推進・加速の司令塔
地域レベルでの具体的なシミュレーションによる災害リスク評価、計画立案
各主体による事前防災対策の抜け、漏れ把握、分野横断的な関係者間コーディネートや平時からの実施勧告等による事前防災の推進
3 発災時から復旧・復興までの災害対応の司令塔
・災害対策本部の運営や国全体の被害状況把握など災害初動体制の構築
・被災自治体への迅速な応援体制の構築
・被災自治体のワンストップ窓口として被災者のニーズを俯瞰的に把握
・過去の災害のノウハウを活かした継続的・包括的な被災地支援体制の構築
組織体制の在り方としては、先述のとおり、内閣直下に設置し、総理を助ける選任の大臣を置き、平時からの各府省庁等への勧告権を有し、勧告を受けた各府省庁等は勧告を尊重する義務があるとした。また、防災のエキスパート人材の確保・育成等としてプロパー採用・養成、民間等外部人材の登用を挙げた。
今後の進め方としては、令和7年夏意向に予算・機構定員を要求し、令和8年通常国会に関連法案を提出し、同年中に防災庁を発足させるとしている。
これに加え、防災庁が推進すべき主な取組を複数挙げているが、その中でも、特筆すべき事項について紹介する。
まずは、「モレ・ムラのない被災者支援の実現」として、スフィア基準等を踏まえた備蓄強化など避難生活環境の抜本改善、災害時における船舶を活用した医療提供体制整備、女性、高齢者、こども等様々な視点における課題検証、支援の在り方の検討の場を設置することとしている。わが国の避難所は、依然として劣悪な環境であり、改善の進展が捗らないことが指摘されている。本取組が本格的に進められることがとりわけ期待されるところである。
次に、「デジタル防災技術の徹底活用」として、被災者支援DXの推進(被災者データ等の収集等システム導入)、人工衛星、ドローン、生成AIを活用した迅速な被害状況把握や災害対応の意思決定支援等のためのデジタル基盤を構築するとしている。防災DXは民間企業においても進展が著しい。産官学民連携体制の強化を挙げていることから、こうしたDXの活用を駆使・徹底することが望まれよう。
最後に、「行動変容に向けた防災教育・普及啓発」として、幼児期からの実践的な防災教育、地域が一体となったコミュニティ防災教育の推進、災害の記録・課題・教訓の継承等を行うこととしている。残念ながら、現在では、地域のコミュニティ力が衰退しているのは明らかである。こうした中、防災活動を基軸として活発なコミュニケーションデザインが図られ、いざというときに、地域防災の底力が発揮されることが望まれよう。
さて、上記に加え、同日の各報道によれば、石破内閣総理大臣は、大規模災害が発生した場合の業務の継続性などを踏まえ、防災庁の地方拠点の検討を急ぐよう求めたとのことである。防災庁の地方拠点については、全国の自治体による誘致活動が活発化している。5月30日までに12の道府県市と関西広域連合が名乗りを上げており、さらに、東京都に隣接する埼玉県の所沢、飯能、狭山、入間、日高の県南西部5市も、4日、域内への誘致に共同で乗り出すと発表した。地方拠点の設置個所については、誰もが腑に落ちるような説得力ある根拠が求められよう。
さらに、石破総理は、成立した改正災害対策基本法等に盛り込まれた施策や、被災地で使用するキッチンカーの登録制度などの運用を着実に進めるとともに、南海トラフ巨大地震の「防災対策推進基本計画」の改訂作業や首都直下地震の被害想定の見直しを急ぐことなども指示したとのことである。これらも重要な課題であり、早急な取組が求められる。