2025年1月12日のNPO法人東京都防災士会定期防災セミナーでは4人の専門家のお話を伺いました。
第4弾となる今回は、東京都住宅政策本部民間住宅部マンション課 統括課長代理(居住性能向上支援担当)の北爪敏丈氏による「東京都のマンション防災関連施策について(東京とどまるマンション等)」をお送りします。
目次
- マンションは6割以上の都民の「すみか」
- マンションの防災の落とし穴〜耐震基準だけじゃない〜
- LCP登録から「東京とどまるマンション」へ
- ソフト面の対策できていますか?
- 「東京とどまるマンション」の詳細
1. マンションは6割以上の都民の「すみか」
東京都民は1400万人いる。そのうち何人がマンション住まいか知っているだろうか?
実は、900万人、単純に計算して都民の6割以上の人がマンションに住んでいる。
今記事を読んでいるあなたはマンションに住んでいるだろうか?あなたの友人はマンション暮らしだろうか?もしそうだとすれば、マンションの防災は他人事ではない。東京のマンションの防災力、特に耐震基準以外のそれについて、本記事は詳しく解説する。
近年、マンションはさらに増えている。都内にある平屋に比べてマンションは1.6倍の戸数で、さらには「省エネ」「再エネ」の取り組みから、注目を集めている。しかし、都が発表している被害総計において、マンション防災の必要性が言及されているのはご存じだろうか?
2. マンション防災の落とし穴〜耐震基準だけじゃない〜
自分がマンションを選ぶときどのような視点でマンションを選んでいるだろうか?セキュリティや立地さまざまな基準がある。その中に防災の基準は含まれているだろうか?含まれているとすれば何で防災力を測っているだろうか?多くの人は耐震性と答えるだろう。新耐震基準だから大丈夫という言葉もよく耳にする。しかし、マンションは耐震基準だけクリアしていれば安全だろうか?
地震がマンションで起こった。停電した。エレベーターが使えない。もしそのマンションが超高層マンションだとすればどうだろう。マンションの外に出るのに何十階と階段を上り下りしなければならない。断水したとすれば、水を持ち運ぶのは大変だ。結果として、家は全く無傷なのに、水がないから、下水が使えないからという理由で避難所に避難しなければならなくなってしまう。都は避難所のキャパシティなどの観点から在宅避難を推進している。誰だって避難生活は自宅でするに越したことはない。
あなたのマンションは全く無傷なのに、それでも避難所に行かざるを得ない。何かおかしくないだろうか?耐震基準以外の何か重要な他の基準を見落としているのだ。
3. LCP登録から「東京とどまるマンション」へ
耐震基準だけではないマンションの防災力。東京都はマンション防災にLCP基準を策定した。LCPとは、Life Continuity Performance(災害時生活継続機能)だ。具体的には、停電してもエレベーターが使えるようにガスで発電などができるかといった基準を設け、その基準を満たすマンションにLCP「登録」をしてもらう。LCP登録のマンションは防災力が高く、それだけ入居者も増えるだろうし、都からも資金的な援助が出る。
しかし、このLCP登録は思うように進まなかったと北爪氏は講演会で語る。PRの「とどまるくん」を作ったものの、知名度が上がらず、登録が進まない。そこで、都は新たに「東京とどまるマンション」という形でシステム作り直し、再出発した。
現在の東京とどまるマンション登録は、耐震性(新耐震基準)はもちろんのこと、非常用電源などインフラのハードの面が整備できているかという基準に加えて、備蓄や初期消火に必要な資器材の整備、隣人とのコミュニティ形成、防災マニュアルの策定、避難訓練の実施がされているかといったソフトの面の整備という基準もある。
4. ソフト面の対策できていますか?
東京とどまるマンション登録に必要な基準、特に非常用電源の設置などハードの面を聞くと登録におよび腰になるかもしれない。しかし、大丈夫だ。耐震性さえ確保されていれば、ランクは下がるがソフト面の整備だけで登録できるという柔軟性もある。実際、2024年11月末の時点で、87,900戸の登録があるうち、その8割はソフト対策のみの登録となっている。また、そのほとんどがマニュアル作成、災害時の連絡体制といった取り組みやすいソフト対策から始めている。
東京とどまるマンションに登録したマンションには、都からの経済的な支援策がある。加えて、非常電源の補助、浸水から電源を守る止水板等の設置への補助、給排水管を調査する専門家派遣などを市区から受けることができる。倒壊の危険性の高いピロティの改修支援も行なっている。このように、ソフトからハードへと、補助を受けながら、防災のレベルを上げていきやすい仕組みになっている。
また登録の有無に関わらず、あらゆるマンションは市区から防災専門家の派遣を受けることができる。防災専門家の助言は実際的なことにも関わるが、マンションの居住者同士のつながりを確保する目的で、災害時を想定したロールプレーイングゲームなどの企画も行われる。防災専門家の派遣によって、マンションは居住者同士のつながりが薄く、安否確認が難しくなりやすいという災害時の課題を、平常時の企画を通じて解消できる。
5.「東京とどまるマンション」の詳細
本記事や動画で詳細が気になった方は、ぜひ都のウェブサイトを訪れてほしい。メールでの申請方法が書かれている。また、防災専門家の派遣などは市区に問い合わせてほしい。
https://www.mansion-tokyo.metro.tokyo.lg.jp/kanri/02lcp-touroku.html
マンションは、多くの都民のすみかだ。マンションの平時からの防災対策が、避難所の在り方にも影響を与える。都の支援策を十分に活用して、我々市民が防災力の高いマンションを作り上げて行きたいものだ。