2025年1月12日のNPO法人東京都防災士会定期防災セミナーでは4人の専門家のお話を伺いました。
第2弾となる今回は、東京消防庁芴災部震災対策課 震災対策係長の磯敦雄氏による「マンション防災の紹介・能登半島地震現地ヒアリング結果紹介」をお送りします。
目次
- 地震への備えは( )× ( )で
- カセットコンロは要注意
- 水に注意:能登半島被災のマンションのヒアリング
- コスパがいい家具転倒対策からはじめよう!
1. 地震の備えは( )× ( )で
地震の備えに関して( )× ( )と聞いて思い浮かぶものは何だろうか?消防の立場からすると、以下の答えがありうる。
(各点対策)×(初期消火)
各点対策にはさまざまな視点があるが、怪我を防ぐことを第一に考えてほしい。自分が怪我をしてしまうと、自分が共助の要因として他の人々を助けに行けなくなる。さらには、もし救急車を呼んだとしても災害時で来てくれるかわからない。マンションで怪我をしたとすれば、救急隊や近所の救助の人は何階も階段を登らなければならない。とても大変だ。
怪我を防ぐ観点からすると、各点対策の中で最もコスパが高いのが、家具転倒対策だ。耐震補強などはお金がかかるし、賃貸では自分一人ではできない。しかし、家具転倒対策なら、自分でつっぱり棒を買ってきて、家具に当てはめるだけだ。壁に傷を残さないので、賃貸住宅でも気軽にできる。なので、
(家具転倒対策)× (初期消火)
といえるだろう。
そして、怪我を防げる対策をした後は、初期消火をしてほしい。例えば、火災が600件起きた場合、消防車は来ない。よしんば来たとしても、一台で、一台の能力では消すことができない。地震のとき、火災が一度起こってしまえば、燃えるがままなのだ。したがって、火災を起こさないことが重要となる。少し火が起こっても、自分達の手で消火できるようにすることが重要だ。
2. カセットコンロは要注意
在宅避難が推奨されている。そこで、調理器具を揃える人も多いだろう。その中で注意してほしいのは、カセットコンロだ。そもそもカセットコンロは災害時での使用を想定していない。実験の動画を流すので見てほしい(YouTube)。震度5相当の揺れでは、炎が大きくなる。炎が大きくなると、燃え移る可能性も高まる。加えて、カセットコンロは、マグネット式のものでない限り、床に落ちても勝手に火が消えない。そのため、床の敷物が燃える可能性が高い。また、カセットコンロ自体が床に落ちなかったとしても、燃えやすいものが揺れでカセットコンロの方へと向かうと、引火する恐れが高まる。
在宅避難でカセットコンロは使い勝手のいい調理器具だが、使用には注意してほしい。火災が一度起きると、もう災害時は手のつけようがない。火を使用する前に、自分の近くに消火器があるだろうか?なければ今すぐ備えてほしい。普通マンションには廊下に消火器があるが、取りに行っていれば、間に合わない。調理する部屋には消火器を備えておくに越したことはない。
3. 水に注意:能登半島被災のマンションのヒアリング
能登半島で被災したマンションにヒアリングを行った。老人が家具の下敷きになっていたのを近所の若者が助けた、揺れがおさまると近所の中古の家に手当たり次第インターホーンを鳴らしに行き安否確認したなど、近所のつながりの強さがよく働いたいい例を聞くことができた。その一方、エレベーターが動かないし、業者も他の被災地の対応で忙しくて来れない、オール電化のおかげで電気がなくなると何もできない、アスファルトがひび割れているなどがあったが、被害のキーワードは、水だった。屋上の水が揺れて傾く、水槽が水漏れるなどだ。
さらに、マンションで問題となるのが管理会社と繋がらない、対応が遅いなどがある。もしうまく管理会社と修繕の合意ができても、被災地に業者が集まず、修繕が行われないといった問題がある。また、管理会社と居住者の意識の違いもある。そもそもマンションの被害は、室内被害よりも躯体被害の方が多い。すると、管理会社は躯体被害を優先的に対策する。仮に躯体被害が少ない場合、外見からするとマンションは無事に見えてしまう。そこで、室内被害は後回しにされやすいこともあるという。しかし、外見が無事に見えるからといって、室内被害がないと限らない。居住者は室内被害の影響を受ける。
4. コスパがいい家具転倒対策からはじめよう!
室内被害を防ぐ面でも、そして怪我を防ぐ面でも、コスパがいいのは家具転倒対策だ。つっぱり棒をつけるだけで、家具が「飛んでくる」のを防げる。耐震工事はお金も大変だ。賃貸マンションなら、壁に傷をつけることができない。しかし、つっぱり棒ならすぐ買ってきて、壁に傷をつけずに、取り付けることができる。まだしていない方は、すぐにしてほしい。