富士山噴火の首都圏の対策について

國廣
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國廣が解説いたします

令和7年3月21日に、内閣府の首都圏における広域降灰対策検討会(座長:藤井敏嗣東京大学名誉教授)は、報告書を公表しました。新聞各紙で大きく報道されましたので、ご存じの方も多いと思います。

処分が必要と想定される火山灰の量については、富士山の宝永噴火(1707年)を想定した場合の噴出量で約17億㎥とされており、そのうち、鉄道、道路、建物用地及び農地など、一定の土地利用がされている範囲に堆積した火山灰の量は約4.9億㎥で、これは東日本大震災の災害廃棄物の約10倍に相当するとのことです。このことからも、莫大な噴火が想定されていることがわかるでしょう。そして、この火山灰は、雪と違って溶けません。適切な場所に的確に処理する必要があります。

報告書では、広域降灰が発生した場合に応急的に実施する対策の基本方針として、①緊急的・直接的な命の危険性は低いという降灰の特徴、②首都圏の人口が非常に多い、③予測の不確実性から、噴火前から社会活動を著しく制限することは現実的ではない、という前提の下で、広域降灰に対する住民の行動は、できる限り降灰域内に留まって自宅等で生活を継続することが現実的と考えられるとしています。

しかしながら、状況によっては直ちに命の危険がある場合も想定され、避難等の行動をとる必要があり、火山灰は噴火後徐々に積もるが、噴火状況によっては都内でも1日で5cm以上積もる可能性があることも踏まえ、特に避難等に時間を要する場合や速やかな災害応急対応を行うためには、実測の降灰量のみならず見込みも加味して対応することが必要であるとしています。

 その上で、住民が降灰域内に留まって自宅等で生活を継続するためには、日頃からの十分な備蓄等、自助による対応のほか、輸送手段やライフライン等の維持等公的な支援が優先事項となるとしています。

 被害の様相のステージに応じた各分野の対策の基本方針について整理されたものが以下のとおりです。

出典元:内閣府Webサイト https://www.bousai.go.jp/kazan/shutokenkouhai/pdf/gaiyo.pdf

國廣
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ここまでは、報道でご覧になったことと同じでしょう。
この際、筆者が感じた3つの事項について、申し上げたいと思います。

備蓄について

まずは、備蓄についてです。政府の報告書では、自宅に留まることを前提に、十分な備蓄を、と推奨していますが、どのくらいの備蓄をしておけばよいのでしょうか。この目安については、どこにも記載がありません。

1週間分の備蓄?

本報告書では、「首都直下地震対策では1週間分の備蓄が推奨されているが、降灰対策としては、噴火の長期化等の可能性もあることから、可能であればそれ以上の備蓄を行うことが望ましい(富士山の宝永噴火では2週間噴火が継続した)」と記載されています。

トイレ問題(自宅で保管)

とすれば、トイレはどうなるのでしょうか。報告書では、下水道については、下水管の閉塞により雨水があふれたり、停電による使用制限があったりするとされています。そうすると、普通のトイレが使えなくなる可能性があります。このため、携帯トイレが必要となります。では、この携帯トイレは何個必要なのでしょうか。どこにも正解が書いてありません。ここで、ごく一般的な計算式に当てはめてみます。「家族人数」×「トイレの回数」×「備える日数」とし、家族は4人、トイレ回数は排尿7回、排便1回で計8回、自宅待機は2週間と仮定した場合、4×8×14=448となります。一つの家庭で448個必要と考えたことはありますでしょうか。こうした実際の個数を本気で考えてみることも必要でしょう。

降灰による影響(マスク・ゴーグル)

次に、報告書では、備蓄として降灰による体調への影響を避けるため、防塵マスクや防塵ゴーグルの確保が望ましいと記載されています。ただ、呼吸器や目への影響については、それほど具体的には記載されていません。しかし、火山灰を吸い込むと気管や肺が傷つけられ、幼児や高齢者の方は呼吸器系の病気になる可能性があります。さらに、ぜんそくなどの持病がある方は、わずかな降灰でも非常に悪化する危険があります。加えて、注意火山灰は鋭くとがっているので、目に入ると非常に痛く、結膜炎や角膜剥離を起こします。自宅等で生活を継続と言っても、一歩も外に出ないわけにはいかないでしょう。このため、防塵マスクや防塵ゴーグルの準備はもちろんのこと、こうした「疾患」に対する理解を一層深めておく必要があると思います。

まとめ

最後に、本報告書は、あくまで検討のために富士山の過去の噴火の規模を想定した一例であり、将来の富士山噴火の状況を示したものではない、ということを忘れてはいけないと思います。実際の噴火時には、風向、噴火の規模及び継続時間等により、降灰の状況が変わることを理解しておくことが必要です。

基本方針も「仮定

このことは、報告書自身に繰り返し明記されていますが、あまり報じられていません。すなわち、上記の基本方針も「仮定」のものなのです。

日本防災士機構主催:「富士山噴火に備える」(講師:藤井敏嗣教授)

ここで、防災士の方ならば、4月19日に日本防災士機構が主催された「富士山噴火に備える」(講師:藤井敏嗣教授)を聴取されたのではないでしょうか。教授は、富士山は5600年に180回噴火しているため、平均30年に1回の頻度であるが、300年間噴火していないので、平均の10倍の期間休止していること、噴火の前に猶予があるならば前兆を捉えてから対策しても遅くはないが、噴火の前兆は数時間から数日にしか現れないこと、前兆が捉えられる以前に、国も企業も個人も今から備えるしかないことを強調されていました。

富士山噴火は未知の経験

すなわち、実際の噴火はどのような規模で、いつ起こるか全くわからないのです。地震や台風などの自然災害は、大なり小なり全ての方々は経験されています。しかし、火山の大規模噴火は、ほとんどの方は経験していないのです。特に、富士山噴火の被災状況の想定は、歴史上の文献と科学的知見によるしかないのです。肌身で実感していないのです。

ですから、特に防災士の方々においては、どのようなことが起きても落ち着いて判断できるよう、日頃からイメージトレーニングしておくことが求められると思います。それには、まず、本報告書の本文を自分自身でよく読み、自分で理解すること(新聞やネットニュースに書いていないことも詳細に記述されています)が必要と考えます。

ぜったいにあきらめない、あきらめさせない

その上で、報告書以上の被害が生じた場合も想定してみることも必要でしょう。そこで忘れてはいけないのは、「ぜったいにあきらめない、あきらめさせない」という気持ちを今から持っておくことです。これまで我が国は多くの災害に見舞われてきましたが、その都度、復旧、復興してきました(福島の原発被害と能登半島の地震と水害被害からの復興はまだですが)。必ず右往左往する局面に出会うと思いますが、なんとか乗り越えてきました。そのためには、少しでも今から未知の噴火対策に目を向け、シミュレーションのイメージトレーニングを繰り返し行っておくことが求められます。

國廣
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今回は富士山噴火について國廣が解説いたしました
次回をお楽しみにしてください